まわりますと、大変です。金の糸と銀の糸がスルスルと解けて来て、二人の女中の首に巻き付きました」
「オヤオヤ。それからどうした」
「二人の女中は驚いて立ち上って、その巻き付いた糸を取ろうとして藻掻《もが》き初めましたが、もがけばもがく程糸がほどけて来て、手や足までもからみつきました。それで女中はなおなお狂人《きちがい》のようになって床の上にころがりまわりましたが、しまいには金銀の糸がすっかり二人の女中に巻き付いて人間の糸巻きのようになって、只うんうんうなりながら床の上を転びまわるばかりでした」
「お前はそれを見ていたのか」
「エエ。あたしはこれはわるいことをした。だってあんなことを云わなければ、二人の女中はビックリしなかったでしょう。ビックリしなければ糸車をあべこべにまわさなかったでしょう。糸車をあべこべにまわさなければ、金銀の糸は女中の首に巻き付かなかったのでしょう」
「そうだ、そうだ」
「ほんとにね」
「あたしそう思って、できるだけ早く助けてやろうとしましたが、扉《と》に鍵がかかっていましたので、助けてやりようがありません」
「それは困ったな」
「それでどうしたの」
「そのうちに糸巻の糸はすっかり二人の女中に巻き付いてしまった上に、壁にいた蜘蛛までも糸にくっついて女中の身体《からだ》に引っぱりつけられましたが、女中が転がりまわりますので、蜘蛛も苦しまぎれに大層|憤《おこ》って、女中の身体《からだ》に巻き付いている糸をすっかり噛み切ってしまいました」
「まあ、それはよかった」
「いいえ。それからがこわいのです。糸を噛み切った蜘蛛は、寄ってたかって女中を喰い殺してしまいました」
「ヤア、それは大変だ」
「何という可愛想なことでしょう」
と云ううちに王様とお妃様は立ち上がって、急いで機織部屋に行こうとなさいました。
オシャベリ姫は慌ててそれを押し止めていいました。
「まあ、お父様お母様、おききなさい……それがやっぱり夢なのですよ……」
「何だ、それも夢か?」
「まあ、お前は何ておしゃべりなのだろう」
と王様とお妃様は又椅子に腰をおかけになりました。そうして王様は真赤に怒ってオシャベリ姫をお睨《にら》みになりました。
「この馬鹿姫め。お前みたようなよけいな事をオシャベリする奴はいない。この上そんなことをオシャベリしたら石の牢屋へ入れてしまうぞ」
と大きな声でお叱りになりました。
「これから本当のことをお話しなさい。ね、いい子だから」
とお母様のお妃様がおとりなしになりました。
けれどもオシャベリ姫は平気でこう云いました。
「いいえ。これからが本当なのです。今までのは今度の本当におもしろいお話をするためにお話ししたのです」
「何……これからが本当に面白い話だと云うのか」
「それはどんな話ですか」
と王様もお妃様もお尋ねになりました。
オシャベリ姫は又お話を初めました。
「あたしは今までお話しした二つの夢がさめますと、ほんとに今夜は変な晩だと思いました。だって、寝ていれば黒ん坊が来そうだし、女中の室《へや》に行ったらばまた何だか変なことを見そうなので、困ってしまいました。それでしかたなしに寝床にねたまま二人の女中の名前を呼んでみました」
「ああ、それはよかった。初めからそうすればよかったのに」
と王様が云われました。
「でも前のは夢ですもの。しかたがありませんわ」
「ウン、そうだったな。それからどうした」
「そうしたら二人の女中が二人ともハイと云っておきて来ましたから、妾はやっと安心をして、今お話しした二つの夢のお話しをしてきかせました」
「二人とも吃驚《びっくり》したでしょうねえ」
と今度はお妃が云われました。
「エエ、ほんとにビックリして二人とも顔を見合わせましてね。ニコニコ笑って……それは大変にお芽出度い夢で御座います……って云うんですの」
「ホー。どうして芽出度いのだ」
「宝物《たからもの》を盗まれたり、女中が死んだりする夢が何でそんなに芽出度いのかえ」
と王様とお妃様は又も揃ってお尋ねになりました。
「それはこうなのです。二人の女中の云うことには、この国で一番芽出度い夢は『短刀と蜘蛛』の夢と昔から言い伝えてあるって云うんです」
「フーム、そうかなあ」
「あたしは初めてききました」
と王様とお妃様は顔をお見合せになりました。
「あたしもよく知りませんけど、女中がそう云うんですの」
とオシャベリ姫は云いました。
「して、それはどういうわけで芽出度いのだ」
と王様がお尋ねになりました。
「何でも短刀と蜘蛛の夢を見るといいお婿《むこ》さんが来ると、みんなが云うのだそうです」
「まあ、それはほんとかえ」
「ほんとだそうです。けれども、そんな夢を見たことが相手のお婿さんにわかるとダメになるのだそうです。ですから
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