が当るようです。
 なおよく気をつけて見ると、頭の上には空があって、処々《ところどころ》その雲の間から星が光っています。
「まあ。やっぱり猫は本当にあたしを助けてくれるのだよ。だけど一体ここはどこなんだろう」
 と、そこいらを見まわしました。
 そうするとやがてあたりが明るくなって、まだ見た事もない山や河や森や家が見えて来ると一所に、向うの雲の間から真赤なお天道様がピカピカ輝きながら出て来ました。そうしてそこいら一面に咲いている花も照らしました。
 その時に気がつくと、最前の猫はどこへ行ったか、影もすがたもなくなっていました。
 オシャベリ姫がボンヤリして立っていますと、間もなくうしろの森の中から二人の百姓の夫婦らしいものが出て来ましたが、だんだん近づいて見るとコハ如何《いか》に……それは人間の姿をした雲雀《ひばり》で、オシャベリ姫の姿を見付けるとビックリして立ち止まりました。そうして二人はオシャベリ姫を指しながら話を初めました。
「クイッチョ、クイッチョ、クイッチョ、クイッチョ」
「ピークイ、ピークイ、ピークイ、ピークイ」
 これを聞くと、オシャベリ姫は不思議なことも何も忘れて、可笑《おか》しくてたまらなくなりました。
「マア……可笑しいこと。アノ……チョイト雲雀さん。ここは何という処ですか。教えて頂戴な」
 と近寄って行きました。
 そうすると雲雀の夫婦は慌てて逃げ出しました。
「ピーツク、ピーツク、ピーツク、ピーツク」
「ツクリイヨ、ツクリイヨ、ツクリイヨ、ツクリイヨ」
 と、一生懸命に叫びながら自分の家の方へ逃げて行きますと、その声をききつけて森の中から沢山の雲雀が出て来ました。
 その雲雀たちはみんな人間の姿をしていて、お爺さんのようなの、お婆さんのようなの、又は若い人から子供までいるらしく、みんなゾロゾロと連れ出ってオシャベリ姫をすっかり取り巻いてしまいました。
 オシャベリ姫を取巻いた雲雀たちは、初めはみんなだまって不思議そうにオシャベリ姫を見ていました。
 けれども何もわるいことをしそうにもないので姫は安心をしまして、も一ペン尋ねて見ました。
「まあ……ここは雲雀の国なの? あたしは人間の国から来たものだけれども、帰り途《みち》がどっちへ行っていいかわからなくて困っているのよ。だれか知っているなら教えて頂戴な」
 すると、その中《うち》の一番年寄りらしい身姿《みなり》をした雲雀がこう云いました。
「リイチョ、リイチョ。リイチョ、リイチョ。チョ、チョ。チョン、チョン」
「まあそれは何と云うこと」
「チョングリイ、チョングリイ、チョングリイ」
「グリイチリ、グリイチリ。チリロ、チリロ」
「ちっともわからないわ」
「チリル、チリル。ルルイ、ルルイ。リイツク、リイツク、リイツク、リイツク」
「つまらないわねえ……そんな言葉じゃ……」
 オシャベリ姫がこう云いますと、今度は集まっていた雲雀がみんな一時にしゃべり出しました。
「ピークイ、ピークイ。ピークイ、ピークイ。クイッチョ、クイッチョ。クイッチョ、クイッチョ。チョ、チョ。チョン、チョン。チョングリ、チョングリ。チイヤ、チイヤ。チャルイヨ、チャルイヨ。チャルイヨ、チャルイヨ」
 オシャベリ姫はあんまり八釜《やかま》しいのでびっくりして、
「まあ。何てやかましいんでしょう。そんなにしゃべっちゃ、私の耳が潰《つぶ》れてしまうよ。やめて頂戴、やめて頂戴」
 と云いましたが、雲雀たちはなかなかやめません。なおもよってたかってしゃべりつづけます。
 オシャベリ姫はあんまり雲雀たちにシャベりつけられて、これはたまらぬと両手で耳を押えて逃げだしますと、雲雀たちはなおもしゃべりつづけながら追っかけて来ます。
 その上にいつどこから出て来たか、雲雀の兵隊や巡査までが繰出して来て、
「キイキイ、ピイピイ」
 と叫びながら、広い野原を逃げまわるオシャベリ姫を追っかけまわしました。その恐ろしいこと……。
 オシャベリ姫はもう夢中になって泣きながら逃げまわっていましたが、やがて草の中にあった深い井戸の中へ真逆様《まっさかさま》に落ち込んで、そのままズンズンどこまでも落ちて行きました。
 姫は又ビックリして、
「アレ、助けて」
 と叫びましたが、あんまりの恐ろしさに眼をまわしてしまいました。
 けれども間もなく又気がついて見ますと、今度はいつ連れて来られたのか、立派な寝床の上に寝かされて、頭の下には柔かい枕が置いてあります。
 どうしたのかしらんと思って、そこいらを見まわしますと、又ビックリしました。
 枕元には人間の大きさ位の青蛙の看護婦が二人、黄金《きん》色の眼を光らして、白い咽喉《のど》をヒクヒクさせながら腰をかけています。
 青蛙の看護婦はオシャベリ姫が眼をさましたのをみると、すぐに立ち上
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