って、
「キャッ、キャッ、キャッ、キャッ」
と呼びました。
すると向うの室で、
「クン……クン」
という声がきこえまして、黒い立派な洋服を着て眼鏡をかけた大きな疣《いぼ》蛙が、黒い皮の鞄を提げてノッサノッサと出て来ました。
その疣《いぼ》蛙は姫のそばへ来ると、鞄から虫眼鏡を出して、姫の顔を眼から鼻から口と一つ一つていねいにのぞきましたが、おしまいに黒い冷たい手で姫の手を掴もうとしました。姫は驚いて、
「アレ」
と云って手を引っこめますと、疣蛙は眼をパチクリさせていましたが、やがて青蛙の看護婦に、
「クフン、クフン」
と何か云いつけて出て行ってしまいました。
そうすると、それと入れ違いに今度は赤い兵隊の服を着た赤蛙が先に立って、あとから最前の疣蛙が這入って来ると、立派な金モールの服を着た殿様蛙と、その奥さんらしいやさしい顔をした青蛙が這入って来ました。この殿様蛙夫婦が這入って来ると、室中にいた疣蛙も赤蛙も青蛙もみんな一時に床の上にひれ伏してしまいました。
けれどもその中で疣蛙だけは頭を下げたばかりで、やがて殿様蛙の夫婦をつれて姫の前に来て、姫の眼や口や鼻を指さして、
「クンクンクンクン」
と何か話しますと、殿様蛙夫婦は眼をクルクルまわしてうなずいております。
姫は可笑しくなって来ました。
「妾は今蛙の国に来て、蛙の病院に入れられているのに違いない。疣蛙はここのお医者さんで、殿様蛙はきっとここの王様で妾を見に来たのに違いない。妾の顔と蛙の顔とは大変に違うから珍らしがっているのだろう」
こう思っているうちに、殿様蛙は赤蛙の兵隊を連れてサッサと帰って行きました。
そうすると大変です。
蛙の国の王様がわざわざ病院までオシャベリ姫を見に来たということを国中の蛙はみんなきいたらしく、いろんな蛙がゾロゾロと蛙の病院の入り口から這入って来ては姫の顔をのぞき込みます。虫眼がねを出してのぞき込むものもあります。ノートブックを出して何か書き止めて行くものもあります。または写真機を出して撮影《うつ》して行くものなぞいろいろありまして、中には何やらお話をしかけるものもあります。
「グレレ、グレレ、グレレ、グレレ
ケオコ、ケオコ」
雲雀の国で懲《こ》りていたのでさっきからだまって我慢をしていたオシャベリ姫は、もう我慢し切れなくなって吹き出しました。
「オホホホホ。ああ、可笑しい可笑しい。何ておかしい言葉でしょう」
オシャベリ姫がこう云いますと、蛙たちはビックリしたらしく、みんな顔を見合わせましたが、やがて又前よりも一層烈しくオシャベリ姫にシャベリかけました。
「グル、グル、グル
グルイレ、グルイレ、グルイレ」
「クロ、クロ、クロ、クロ
プリイ、プリイ、プリイ
プロロ、プロロ、プロロ」
と云いながら、われもわれもとオシャベリ姫をのぞきこみます。
「オホホ、ハハハハ。あたしの顔が何でそんなに珍らしいの。眼玉ばかりキョロキョロさして」
「ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ、ツララロ」
「ハハハハハハハハ。ホホホホ。あたしいやよ、そんなにのぞいちゃ。アレ冷たい。気味のわるい。さわっちゃいけない。キタナラシイじゃないの」
「ダレイケ、ダレイケ、ダレイケ
グレイケロロ、グレイケロロ、グレイケロロ」
「コロロ、グロロ、ガロロ、ウロロ、ゲロロ、ゲロロ、ゲロロ」
といううちに、あとからあとからのぞき込んで来ます。しまいには上から上に重なり合って、姫の寝台の上まで飛び上って来て、われもわれもとしゃべります。
オシャベリ姫は、これはたまらぬとはね起きて、入り口から逃げ出そうとしましたが、看護婦の青蛙が両方からかじり付いて放しません。
その中《うち》に窓の方を見ますと、窓の外はもう一面に蛙が山のように押し寄せて、あっちへ押し合いこっちへヘシ合い、大変な騒ぎです。おまけにそのシャベルこと。
「グレーレ、グレーレ、グレーレ、グレーレ
グレーチョコ、グレーチョコ
グルーロ、グルーロ、グルーロ
レロロ、レロロ、レロ、レロ、レロ」
「ツララ、ツララ、ツラララロ
クロラ、クロラ、クロロロラ
ゲレロ、ゲレロ、ゲレレレロ
グラ、グラ、グラ、グラ、グラ
ゲラ、ゲラ、ゲラ、ゲラ、ゲラ
ガラ、ガラ、ガラ、ガラ、ガラ」
姫は一生懸命大きな声をして、
「ちょっと待って頂戴。そんなに押すと寝台が壊れてしまうよ。そんなにしゃべると妾の耳が破れてしまうよ」
と叫びましたが、蛙どもはなおも一生懸命にのぞき込んでしゃべります。
姫はもう死に物狂いになって、蛙たちの頭を踏《ふみ》つけて表に飛び出しましたが、門のところまで来ると又驚きました。
オシャベリ姫は蛙のオシャベリに驚いて、蛙の病院から飛び出して表へ逃げ出しましたが、表門を出て
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