オシャベリ姫
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)お妃《かあ》様の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大層|憤《おこ》って、
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ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、オシャベリ姫というお姫さまがありました。
このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何かしらシャベッていないと気もちがわるいので、おまけにそれを又きいてやる人がいないと大層御機嫌がわるいのです。
ある朝のこと、このオシャベリ姫は眼をさまして顔を洗うと、すぐに両親の王様とお妃《かあ》様の処に飛んで来て、もうおしゃべりを初めました。
「お父様お母様、昨夜《ゆうべ》は大変でしたのよ。ゆうべあたしがひとりで寝ていますと、どこから這入って来たのか、一人の黒ん坊が寝床のところへ来まして、妾《わたし》の胸に短刀をつきつけて、宝物のあるところはどこだと、こわい顔をしてきくのです」
「まあ、それからどうしたの」
と王様とお妃《かあ》様はビックリして姫にお尋ねになりました。
「それからね……妾はしかたがありませんから、宝物《たからもの》の庫《くら》のところへ連れて行ったら、黒い腕で錠前を引き切って中の宝物をすっかり運び出して、お城の外へ持って行ってしまったのですよ」
「なぜその時にお前は大きな声で呼ばなかった」
「だって、その宝物をみんな妾に持たせて運ばせながら、黒ん坊は短刀を持ってそばに付いているのですもの」
「フーム。それは大変だ。すぐに兵隊に追っかけさせなくては。しかしお前はそれからどうした」
「やっとそれが済んだら、黒ん坊は妾の胸に又短刀をつきつけて今度は、オレのお嫁になれって云うんですの」
「エーッ。それでお前はどうした」
「あたしはどうしようかと思っていましたら……眼がさめちゃったの」
「何……どうしたと」
「それがすっかり夢なのですよ」
「馬鹿……この馬鹿姫め。夢なら夢となぜ早く云わないのか」
と王様は大層腹をお立てになりました。
「まあ。それでも夢でよかった。あたし、どんなに心配したかしれない」
とお妃さまもほっとため息をつきました。
「オホホホホホ。まあ、おききなさい。それからね、わたしは眼をさ
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