召集になるだろう。遣り切れんよ全く……」
騒ぎがだんだん大きくなって行った。盗まれた現金が十二万円という大金で、且つ、被害者の西村というのが、非常に評判のいい好人物だったせいでもあったろう。一つには死骸が二人の職工の手で事務室へ抱え移されていたために、現場の模様が全くわからなくなったので、取調べがだんだん大仕掛になって行って、犯人が逃込んだと思われる、木工、鋳造、薄板、第一工場の全部の職工が一人一人に訊問されたせいでもあったろう。
もちろんその時には星浦警察署と町の青年の全員が工場の周囲を蟻《あり》の這い出る隙もないくらい包囲していた。取調べには署長以下、警部と、部長と刑事の全員が大童《おおわらわ》になってスピードをかけたものであったが、それでも見当が付かなかったらしく、夕方になって、現場を見ていた三人の職工が今一度呼出されて、念入りな訊問の仕直しを喰ったが、それでも三人の答えは前の時とチットも変らないばかりでなく、ピッタリと一致するところばかりなので、何事もなく放免された。
製鉄所の裏門から銀行へ行って、製鉄所の資金の一部と、職工の俸給の全部を受取った西村は、札束の全部を、いつ
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