」
と早口に叫んだ戸塚は、ほかの二人が呆気《あっけ》に取られているうちに素早く、直ぐ横の木工場に飛込んで行った。犯人のアトを追って行ったらしかった。
しかし戸塚は、そのまま帰って来なかった。
木工場と鋳造場と、その向うの薄板《うすいた》工場と、第一工場のデッキの下を潜り抜けて、購買組合の前から通用門を抜けると往来へ出る。そこから一気に警察へ駈け込んで行ったのであった。
三
警察はちょうど無人《ぶにん》であった。海岸に漂着死体が在るという報告で、出動した後だったので、居残っていた田原という警部が、戸塚の話を聞いて、外から帰って来たばかりの思想係りの楠《くすのき》という刑事を呼んで一所《いっしょ》に出かけようとした。そこへ又けたたましく電話がかかったので、田原警部が剣を釣りながら聞いてみると、今度は製鉄所の事務室から三好という職工が掛けたものであった。
田原警部はチエッと舌打をした。直ぐに小使を呼んで名刺の裏に鉛筆で走り書きをして海岸に走らせた。
「楠君。君、署長に電話をかけてこの男の話を取次いでくれ給え。製鉄所の公会堂で武道試合を見ている筈だから……多分、非常
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