はしまいかと思って、ボンヤリ草の上に座っておりました。
 ――可哀そうなミミ。
 ルルが湖に沈んでから何日目かの晩に、湖の向うからまん丸いお月様がソロソロと昇って来ました。ミミはその光に照らされた湖の上をながめながら、うちへ帰るのも忘れて坐わっておりました。
 湖のまわりに数限りなく咲いている睡蓮《すいれん》の花も、その夜《よ》はいつものように睡らずに、ミミの姿と一所に、開いた花の影を水の上に浮かしておりました。
 お月様はだんだん高くあがって来ました。それと一所に睡蓮の花には涙のような露が一パイにこぼれかかりました。
 ミミは睡蓮の花が自分のために泣いてくれるのだと思いまして、一所に涙を流しながらお礼を云いました。
「睡蓮さん。あなた達は、私がなぜ泣いているか、よく御存じですわね」
 その時、睡蓮の一つがユラユラと揺れたと思うと、小さな声でミミにささやきました。
「可哀そうなお嬢さま。あなたはもしお兄さまにお会いになりたいなら、花の鎖をお作りなさい。そうして明日《あす》の晩、お月様が湖の真上にお出《い》でになる時までに、その花の鎖が湖の底までとどく長さにおつくりなさい。その鎖につかま
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