噴水を治《なお》してしまうまでは待ってたもれよ。それももう長いことではない。ミミよ、お聞きやれ。あのルルの打つ鎚《つち》の音《ね》の勇ましいこと」
女王様とミミは涙に濡れた顔をあげて、ルルの振る鉄鎚の音をききました。
ルルは湖の御殿の噴水を一生懸命につくろいました。もう二度とふたたびこわれることのないように、そうして、陸《おか》の鐘つくりや鍛冶屋さんが湖の女王様に呼ばれることのないように、命がけで働きました。そのうち振る槌の音は、湖のふちにある魚《うお》の隠れ家や蟹の穴までも沁《し》み渡るほど、高く高く響きました。
「カーンコーン カンコン
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ミミにわかれてこの湖の、底にうちふるこの鎚のおと、ルルがうちふるこの槌の音
カーンコーン カンコン
ないてうちふるこの槌の音、ないてたたいてこの湖の、水をすませやこの槌のおと
カーンコーン カンコン
ミミにあいたやあの妹に、おかへゆきたやあの故郷《ふるさと》へ、そしてききたやあの鐘の音」
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ルルはとうとう噴水を立派につくろい上げました。玉のような澄み切った水の泡が、嬉しそうにキラキラと輝きながら空へ空へ渦巻きのぼってゆきました。そのま上の濁った水が、新しく噴《ふ》き上った水に追いのけられて、そこからあかるい月の光りと清らかな星の光りが流れ込んで来ました。もうこれから何万年経っても、この噴水がこわれることはあるまいと思われました。
湖の御殿の真珠の屋根は、月と星の光りを受けて見る見る輝き初めました。瑠璃《るり》の床、青玉の壁、翡翠《ひすい》の窓、そんなものがみなそれぞれの色にいろめき初めました。
湖の女王の沢山の家来……赤や青や、紫や、黄金《こがね》色の魚《さかな》たちは、皆ビックリした眼をキョロキョロさして、われもわれもと列を組んで御殿のまわりに集まって来ました。そのありさまはまるで虹が泳いで来るようでした。
湖の女王様は手をあげてその魚どもを呼び集められまして、これからルルとミミにできるだけ立派な御馳走をするのだから、その支度をせよと云いつけられました。
湖の御殿の噴水を立派に直したルルは、もう歩くことが出来ないほど疲れておりました。けれども……この噴水がもう二度とふたたびこわれないようになった……この湖の中に在る数限りないものの生命は助かった……そうしてこれから後
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