も鳴るようにしてやりましょう――。
――ああ、ほんとに可哀そうなことをしました」
この時、ミミはルルの歌の声をたよりに、やっと女王様のお室《へや》の前までたどりついておりました。そうして、女王様のひとり言をすっかりきいてしまったのでした。
ミミは、女王様がルルとミミのことを可愛そうに思っておられる……そうしてルルを陸《おか》に帰してやろうと考えておられることを知りますと、胸が一パイになりました。
その時、女王様は立ち上って、寝部屋《ねべや》へ行こうとされました。
ミミは思わず駈け込んで、女王様の長い長い着物の裾に走り寄りました。
女王様はビックリしてふり向かれました。……ここは当り前の人間がたやすく来るところではないのに……と思いながら
「お前はどこの娘かね……」
とお尋ねになりました。
ミミは品よくお辞儀をしました。そうして、涙を一パイ眼に溜めながらお願いしました。
「私はミミと申します。ルル兄様に会いにまいりました。どうぞ会わせて下さいませ」
「オオ。お前がルルの妹かや」
と、女王様はミミを抱寄せられました。そうして、しっかりと抱きしめて、静かな声で云われました。
「お前がルルの妹かや。お前が……お前が……まあ、何という可愛らしい娘であろう。ルルがお前のことをなつかしがるのも無理はない。悲しむのも無理はない。
お前も嘸《さぞ》悲しかったであろう。淋しかったであろう。そうして私を怨んでいたであろう。
許してたもれや。許してたもれや」
女王様は水晶のような涙の玉をハラハラとミミの髪毛の上に落されました。
ミミは泣きじゃくりながら顔を上げて、女王様に尋ねました。
「女王様。女王様はほんとうに……私たちを陸《おか》へ帰して下さいますでしょうか」
「ほんとうともほんとうとも。私が今云うたひとり言はみな偽りでないぞや。
あのルルが来て、あの噴水を直してくれなければ、この湖の中のものは皆死ななければならぬ。それゆえルルを呼びました。それゆえお前にも悲しい思いをさせました。どうぞどうぞ許してたもれや。それにしてもおまえはよう来ました。よう兄さまを迎えに来ました。きっと二人は陸《おか》に帰して上げますぞや。お前たちのお父さんのように悪い魚にたべられぬようにして……そうして、陸《おか》に帰ったならば鐘も鳴るようにして上げますぞや。
なれども、ルルがあの
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