、ロスコー氏自身、及、コック兼小使の東作の前身に相違ないと思われる若い西洋人と、日本人の顔と、その首から下に属する刺青とが各一枚|宛《ずつ》、美事な印画紙に焼付けられているのが発見された事であった。
 その中でマリイ夫人の刺青の図柄は前述の通りであるが、ロスコー氏自身のものは精密な西洋古代の海戦の単色彫り。又、東作のは吉原の花魁《おいらん》道中の図で、これは又ロスコー氏の分と正反対に暈《ぼ》かし、色彫り、化粧彫りなぞいう、あらゆる刺青の秘技を発揮した豪華版が、そっくりその通りに水彩顔料で彩色されたものであった。
 こうした数々の発見は、流石《さすが》の事件に慣れた警官たちを少なからず面喰らわせた。
 最初は金品の紛失が一つも発見されないところから、単なる痴情関係から起った事件ではないかという考えが、期せずして一同の頭に浮んでいたらしかったが、こうした途方もない発見が次から次に出て来ると、その単なる西洋婦人殺しの裏面に潜んでいる事情が、何かしら複雑を通り越した、恐ろしく怪奇な、むしろ神秘めいたものではないかという感じが、一同の頭を次第に動揺させ初めたのであった。

 一方には倫陀療養院か
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