ら召喚された東作爺が、ロスコー家裏手の日本屋自室で、厳重な取調《とりしらべ》を受けたのであったが、その申立《もうしたて》の内容にも、相当に怪奇な分子が含まれていた。
東作の全身には、ロスコー氏の金庫の中から発見された写真と同様の刺青がたしかに存在していた。それはその撮影と彩色の技術が如何に巧妙な、且《かつ》、優秀なものであるかを事実に証明しているものであったが、本人自身はその背負っている刺青の威勢のヨサにも似合わず、ただもう恐れ入った篤実そのもののような態度で、ビクリビクリと訊問に応ずるのであった。
「私は三十年ばかり前からコック兼、掃除男として御当家ロスコー様に御奉公申上ている者で御座います。お給金は毎月八十円を頂戴しまして、R市で玉突屋を致しております実の娘と、大学生の養子夫婦に毎月六十円ずつ分けてやりまして、残りの二十円を煙草代と酒代にしながら気楽な日を送っておりますような事で、貯金も只今は二千円余り御座いますので、死んだ後の事なぞチットモ心配致しておりませぬ。
只今のロスコー様の御夫婦仲はまことにお宜しいようで……ことにお二人の中でも奥様のマリイ様は見かけに寄らない気の強い
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