けた馬鹿馬鹿しいとも形容さるべき構造で、ロスコー夫妻の頽廃的な趣味を露骨に裏書きしたものであった。
 それから第二は寝室(犯行現場)の隣室になっているロスコー氏の書斎の一隅に在る粗末な木製の本箱を、一人の刑事が何気なく取除いてみると、その向側の壁に塗込んである極めて旧式の小型金庫が発見された事であった。その金庫は無論日本製のものであったが、その金庫を発見した刑事が、何かしら胡乱《うろん》臭いと思ったのであろう、持っていたマリイ夫人の鍵束でコジリ廻して、出鱈目《でたらめ》にマリイという三字の片仮名の記号を引っかけてみると偶然の一発当りで開いた。その中の棚には一々薄紙に包んだ沢山の写真と、英文の美事な細字で認《したた》めた原稿様の西洋型罫紙の大部な綴込と、西洋式の刺青の道具を納めた大きな銀の箱とが重なり合っていたが、中にもその夥しい写真というのは全部、世界各国人の各階級を網羅したものらしい刺青の写真ばかりで、驚くべき事にはそれ等の刺青の中に、新聞や雑誌で紹介されている各国の貴顕、名士、スター級の映画女優の顔がチラリチラリと混っているばかりでなく、更に更に驚くべき事にはマリイ夫人その人の刺青
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