除いては何一つ発見出来なかった。してみると犯人は闇夜の海上伝いにどこからか泳いで来るか、又は船を漕いで来て、岬の突端の岩山を越えて来たものでなければならない筈であるが、それは余程この辺の地理に精通している上に、そうした汐時と、汐先の加減を十分知り抜いていない限り、ずいぶん当てずっぽうな冒険的な遣り方で成功したものと考えなければならなかった。のみならず、その問題の岩山の上には、酔っ払っていたとはいえロスコー家の雇人の東作が寝ていたというのだから、話が何となく妙チキリンである。たとい東作を犯人として考えても、何となく辻褄《つじつま》の合わないところがあるように考えられる。
 そんな事が評議、研究されているうちに、間もなく正午過ぎになると、又々異様なものが、このバンガローの中から次から次に発見されて、係官たちを面喰らわせた。

 その第一は玄関の奥に、台所と隣合って設計されている浴室の立派な事であった。それはマリイ夫人の寝床の下から発見された鍵束でヤット開かれたものであったが、超モダンな分離派式タイル張《ばり》の三坪ばかりの部屋の天井と四壁に、贅沢にも十数個の電球と、合計七個の大小の鏡を取附
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