解体した結果判明した。それから犯人は玄関の内側に面した鍵の掛かっていない扉を押開いて夫人の寝室に侵入し、寝台の上で夫人と格闘してこれを絞殺した以外には、一物も奪い得ずに逃走した事実……等々々が、何の苦もなく推定されたが、ここに困るのはそれ以外の、室外に於ける犯人の行動がサッパリわからない事であった。
 ロスコー家の周囲の松原には砂まじりの赤土の中から丸い石が一面にゴロゴロと露出していて苔があまり生えていない。そのために靴で踏んでも素足で歩いても足跡が全然残らないようになっていた。しかしその石のゴロゴロした松原の周囲は、岬の突端に在る松林続きの岩山を除いた全部が、真白い綺麗な石英質の砂浜になっているのだから、犯人がその岩山伝いに松原を潜って来て、帰りにも亦おなじ筋道を逆行しない限り、その松林の周囲のどこかの砂原に足跡が残っていなければならない筈であった。然るにその砂浜に残っている足跡といっては、対岸のR市から波際伝いに歩いて来た二人の沙魚《はぜ》釣男のソレと、その前に郊外電車の停留場から、やはり海岸伝いに帰って来て、マリイ夫人の死骸を見て仰天し、波打際でブッ倒おれた迄のロスコー氏の靴跡を
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