ソヒソと打合わせている中《うち》に、大急ぎでロスコー家を出て行った。それは時を移さず手配をするために、倫陀病院の電話を借りに行ったものであった。
しかし犬田博士の活躍はまだ終りを告げなかった。
それから犬田博士は二人の特高課員と協力してロスコー家の内外を隈なく捜索した。その結果、浴室の天井裏のタイルの裡面から重要な機密書類を、夥しく発見したそうであるが、その内容は窺い知る由もない。ただその後の調査によって、その時までロスコー家に掛けられていた国際スパイの嫌疑に関する主犯者は他ならぬマリイ夫人に相違ない事が確認されたという。すなわちマリイ夫人はその美貌と、刺青とを利用する親譲りの国際スパイであった。その背部に施してある刺青の中で、普通よりも引歪《ひきゆが》められている部分を、直線で連絡してみると一つの旧式要塞の図になっていて、星は望楼、花は砲台、雲は森林として配置されている事が判明した。同時に夫のロスコー氏はその従犯で、夫人の命令のまにまに与えられた地形図を図案化して刺青する技術師に過ぎなかった。又、雇男の東作は、そんな事を全然知らなかったらしく、ロスコー夫婦の常識を超越した変態恋愛
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