離を測定して手牒に記入した。
 山口老署長は喜びに堪えないかのように額を輝やかしながら傍の司法主任の警部をかえりみた。
「ヤッパリ彼奴《きゃつ》だね」
「そうです。間違いありません」
 と警部も満足らしくうなずいた。
「指紋を一つも残しておりませぬので万一、彼奴《きゃつ》じゃないかとも思っておりましたが……」
「ウムウム。しかし彼奴《きゃつ》はコンナ無茶な事を決してせぬ奴じゃったが……それに物を一つも盗っておらんところが怪訝《あや》しいでナ」
「そうです。そのお蔭で捜査方針が全く立たなかったのです。イヤ、助かりましたよ」
「君等の方で東作老人を拘留してくれたんで、これだけの緒《いとぐち》が解けて来た訳だね。東作が大|晦日《みそか》の満月を見てくれないと、一番有力な手がかりになっている麻酔の一件が、まだ掴めないでいる訳だからね。ハハハ。イヤ。お手柄だったよ」
 と蒲生検事が慰めた。真赤になった山口老署長が帽子を脱いで汗を拭いた。
「この膝小僧の褶紋を本人のと合せて御覧になったらイヨイヨのところがわかりましょう。指紋と同じ価値があるのですから」
 司法主任の警部は検事、判事、署長と何事かヒ
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