のようにボロボロと涙を流して「マリイマリイ」と号哭《ごうこく》するばかりで、何が何だかサッパリ要領を得ない。
 そこで倫陀院長が気を利かしてタッタ一人居る助手の弓削《ゆげ》という医学士に命じてロスコー家の様子を見に遣ると、この弓削医学士というのが又、そんなような仕事のノンビリした病院の助手らしい探偵小説の耽読者であった。従って相当の好奇心の持主らしく、ロスコー家の寝室に無断で侵入して、夫人の惨死体を発見したが、しかし流石《さすが》に屍体には手を触れなかった。そのまま浴室の横を抜けて、裏手の小使部屋に来てみると、兼てから顔と名前だけ知っている東作|爺《じい》の姿が見えない。怪《あやし》んで附近の状況を調べてみると東作の部屋に繋がっている呼鈴《よびりん》と、S市に通ずる電話線が切断されている。
 そこでイヨイヨ好奇心を唆《そそ》られた弓削医学士は、尚もそこらを隈なく探検している中《うち》に、意外にもS岬の突端の岩山の上で、大の字|型《なり》にグーグー眠っている東作爺を探出《さがしだ》したので、取敢えず揺起して倫陀病院に連行して、弱り込んだまま寝ているロスコー氏に附添わした。だから東作老人は
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