バンガローの中の寝室で絞殺され、暴行を加えられていた。その時に裏手の少し離れた日本家に住んでいたロスコー家のコック兼、小使の東作という老人は、奇怪にも酒に酔払って、そこから二百|米突《メートル》ばかり隔った半島の突端、外海側に在る低い、小さな岩山の上の、生い茂った草原の中にグーグー眠っていた……というのが事件の発端であった。
その土曜日の晩に、会社で、徹夜の仕事をして、翌る日曜日の朝早く、大急ぎで帰って来た愛妻家のロスコー氏は、昨夜、自分自身の手で、たしかに鍵を掛けて出た筈の玄関の扉が、半分ばかり開いているのを遠くから発見してハッとした。大急ぎで吾家に走り込んで、惨酷《むご》たらしく変化したマリイ夫人の絞殺屍体を一目見ると、そのまま一散に表へ飛出して、意気地なくも、内海の波打際にブッ倒れて気絶しているのを、程経て沙魚《はぜ》釣りのために通りかかった二人の県庁吏員が発見して、程近い倫陀病院に担ぎ込んだ。その院長倫陀博士の応急手当で、ロスコー氏はヤット意識を回復して、前記のような事実を辛うじて物語るには語ったが、元来が西洋人一流の極度にセンチな意気地のない性格らしく、一種の痴呆患者か何ぞ
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