作爺さん。ロスコー家は先代のお父さんからして非道《ひど》い刺青キチガイであったが、今の若いロスコー君も、先代に一層輪をかけた刺青キチガイだったのだろう。それがいつの間にか奥さんのマリイさんに伝染してしまったが、お前は一切そんな事をロスコー夫婦に口止めされていたんだろう。お前はちょうど日露戦争頃に先代のロスコーさんと識合《しりあ》いになって、それ以来ずっと、ロスコー家に奉職していたんじゃないか。その先代にも、お前はやはり刺青の事を口止めされていたので、お前はロスコー家に居る限り、娘夫婦の幸福のために、ロスコー家の秘密を喋舌《しゃべ》らない事にきめていたんじゃないか。まだまだ詳しい事がスッカリ調べが附いているんだから、隠したって無駄だよ。……お爺さん……」
東作老人はここまで云って来た博士の言葉のうちに太い溜息を一つした。司法主任から啣え直さしてもらった朝日を吸い吸い嗄《しわが》れた、響の強い声でギスギスと話しだした。マン丸く開いた正直者一流の露骨な視線を、犬田博士の真正面に据えながら……。
「ヘエイ。かしこまりました。ロスコーの若旦那がお亡くなりになりましたのは、やっぱりまったくなんで
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