れならば嫌疑の掛かるのも無理はないと考えられそうな野性的な、頑固一徹の性格をあらわしていた。
しかし犬田博士は平気であった。その東作爺のモノスゴイ視線を、博士一流の柔和な、親切そうな微笑でニッコリと受流しながら朝日を一本吸付けて一文字の口に啣《くわ》えさしてやった。それから自分も一本火を点《つ》けて啣えながら、今一度ニッコリとして椅子を進めた。
「爺さん。御苦労だったね。お前に罪の無い事は僕が知っているよ。だから今となっては何もかも洗い泄《ざら》い話した方がよくはないか。その方が娘さん夫婦のためになると思うがどうだね。ロスコー家の秘密を何もかも話してくれないかね。ロスコーさんは、あれから直ぐに自殺してしまったんだからね」
博士の言葉が終らないうちに東作老人が、口に啣えてスパスパ美味《うま》そうに吸っていた煙草をポロリと膝の間へ落した。ロスコー氏の自殺を知って、よほど驚いたらしく、顔色を見る見る青くして、顔面筋肉をビクビクと痙攣さした。シッカリ閉じた両眼から涙をハラハラと流してうなだれると、前よりも一層固く口を閉じてしまった。その態度を見ると犬田博士は、なおも一膝すすめた。
「なあ東
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