蒲生検事、市川判事、山口署長以下、皆、こうした犬田博士の説明を聞いているうちに一旦、事件の表面を被《おお》うている不可思議な悪夢から呼醒まされて、更に又、今一度、一層恐ろしい悪夢の中に突落されたような気がしたという。そうして皆、今まで全く世に知られていなかった犬田博士の頭脳の偉大さを初めて知って、驚愕し且つ尊敬し初めたもので、この事件に限って犬田博士をモウすこし自由に活躍させてみたくなったという。
署長室に引っぱり出された東作爺は、もうかなりの高齢らしかった。しかし若い時分に相当の苦労をしたらしく、石油会社の印袢纏《しるしばんてん》と股引《ももひき》に包まれた骨格はまだガッシリとしていて、全体に筋肉質ではあるが、栄養も普通人より良好らしく見えた。手錠をかけられたまま観念の眼を閉じて、犬田博士と正対した椅子に腰をかけさせられると、気力の慥《たし》かなスゴイ瞳をあげて、博士の顔をジロリと見ると又ヒッソリと瞼を閉じた。その豊富な角苅《かくがり》の銀髪とブラシのように生やしたゴリラ式の狭い前額《まえびたい》と太い房々とした長生眉《ながいきまゆ》と、大きく一文字に閉じた唇を見ると、成る程こ
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