らしく、その自殺を聞知した私服の特高課、外事課員が二人、山口署長に極秘密で面会し、事件の真相を聴取したいと申出た。その序《ついで》に……ロスコー氏の奉職している石油会社の本社でもこのS岬事件を相当重視しているらしい。R市支社の重役で日本語の達者なドラン氏が本日、識合《しりあ》いの特高課長の処へ出頭して、ロスコー氏の死因は自殺か、他殺か。本国へ打電する必要があるから極く内々で説明してもらいたい。東京の本社から人事係長(外人)と海軍大尉上りの日本人重役の二名が本日午後の急行で東京を出発したという電報が来たから、その二名が到着しない前に真相が判明していないと自分の責任になる虞《おそれ》があるので是非説明して欲しい。さもなければ当市の裁判所の検事か警察署長に紹介してもらいたい……というので非常に鄭重な態度で哀訴歎願して来た……という事実を外事課員が洩らしたので俄然、事態が二重、三重の意味で緊張して来た。流石に着実温厚を以て聞こえた老署長も、これには少々狼狽させられた。さもなくとも正体の掴みにくい事件の真相を最大限二三日の中《うち》に片付けなければ、日本の警察の威信に関するのみならず、愚図愚図《
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