ら、半分は巧妙な窃盗犯の手口も加味されている。単なる他殺が単なる他殺でなく、単なる自殺が単なる自殺でない……といった風に考えなければ、大変な間違いに陥りそうな気がして来たので、流石に老練の蒲生検事もウッカリ断定が下せなくなった。類犯ばかりを標準にして判断を附けるのが習慣のようになっている刑事連中などは、ただもう面喰ってしまっていた。これは到底吾々の手に合う事件じゃない。毛唐人の気持なんか吾々にわからないんだから……などと逃腰になる者さえ居た。
 以上の報告を司法主任の警部から詳細に亘って聴取したR市警察の山口老署長も、やはり判断に迷ってしまったのであった。
 普通の場合だと検事に対する部下の不平なぞを聴いてやって、シッカリ頼む……とか何とか激励するだけで、差出た意見を附加《つけくわ》えたり何かしないのが、温厚を以て聞こえた山口老署長の本分みたような習慣になっていたのが、今度という今度ばかりは例外になって来た。……というのは丁度その時に県庁の特高課が、ロスコー氏の自殺を重視している事がわかった。確かな理由は不明であるが、ロスコー氏の行動はズット以前から極秘密に特高課の監視を受けていたもの
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