ぐずぐず》すると面倒な国際問題にまでも引っかかって行きそうな形勢になって来たので、ジッとしておれなくなった。
 ところが幸いに最初からこのS岬事件に関係していた蒲生検事は、署長の同郷で、懇意な間柄だったので、そこに一道の活路が見出された。山口老署長は、やはりその夜の中に極秘密で蒲生検事に面会して色々と懇談を遂げた結果、とにかくその「刺青」なるものに就いて専門家の意見を聞いた上で、何とか方針をきめる事にしたら、どうであろう。いずれにしても、そんな奇怪な書類を中心にして、刺青をした人間ばかりが寄集まっている点が不思議といえば不思議である。しかも「刺青」の話に関する限り東作爺が頑として口を開かないところを見ると、そこに事件の秘密を解く鍵が隠れているのじゃないか……といったような事にアラカタ意見が一致したが、しかしR市のような比較的狭小な都市に刺青の研究家なぞいう者は居そうにない。むろん別にコレという程の心当りもないので、取敢えず、これも署長の小学時代の同窓として懇意なR大学の法医学教授、犬田博士を招いて、意見を聞いてみてはどうであろう……という事になった。

 出張から帰ると間もなく、山口老
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