どろぼう猫
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)斑《ぶち》
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お天気のいい日に斑《ぶち》猫が縁側に坐ってしきりに顔を撫で廻しておりました。この猫は鼠を一匹も捕らぬくせに泥棒猫で、近所から嫌われていましたが、「ニャーニャーゴロゴロ」とおべっかを使うのが上手なので、この家の人に可愛がられていました。
ちょうどこの家の赤犬が通りかかって、この猫を見ると声をかけました。
「ブチ子さん今日は」
猫はふり返って、
「オヤ赤太郎さん。だんだん地べたがつめたくなりましたね」
とあいさつをしました。
「ブチ子さんは何をしているのだね」
猫はすまして答えました。
「お化粧をしているのですよ。妾はあなたと違ってお客様のお座敷へも出るのですからね」
犬はイヤな奴だと思いましたが、我慢して別れました。
翌る日犬が又縁側を通ると、猫は畳の表を爪で力一パイバリバリと掻きむしっています。犬は見咎めて、
「何をしているんだい。ブチ子さん」
「畳の間のほこりを取っているんですよ。妾のする事を一々やかましく咎め立てておくれでない。畳の上の事と地べたの上の事とは勝手が
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