違いますからね」
と不愛想に言いました。犬はいよいよ勘弁ならぬと思いましたが、このうちの人に可愛がられているのでジッと辛抱して出て行きました。
ちょうどこの頃、この家の台所の食べ物がチョイチョイなくなりました。しかもちゃんと戸が締まっている戸棚の中のものがなくなりますので、この家の人は女中さんを呼び出して
「お前が食べるのだろう。そうして犬や猫のせいにするのだろう」
と叱りました。女中は、何が取って行くのかわかりませんでしたから言い訳が出来ませんでした。犬に御飯をやる時に眼を真赤にして泣いている事もありました。
犬は女中さんがかわいそうでたまりませんでした。きっとあの猫が台所の食べ物を取るに違いないと、いつも猫のようすに気をつけておりました。
処がある日、犬がちょいと台所へ来てみますと、コワ如何に……猫は今しも戸棚の中から大きな牛肉の一きれを引きずり出そうとして夢中になっている処でした。犬は黙っているわけに参りませんでした。
「やいこの泥棒猫、何をするのだ」
と怒鳴りますと、猫はふり返って眼を怒らして、
「やかましいったら。この肉に女中さんが猫イラズを入れたから、私が鼠の通
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