苦しくなってゆくような……それでいて次の頁《ページ》を開かずにはいられないような……。
「ホホホ。感心なすって……。妾にそうした趣味を教えてくれたのはこの画帳なんですよ。もっとハッキリ云うと亡くなった主人なのよ。……主人は亡くなりがけに、自分が生きている間じゅう許さなかった女の楽しみをスッカリ妾に許して行ったんです。そんなにまで主人は妾を愛していたんですの……ですから妾は、そんな遊戯の真似を、この室《へや》でするたんびに、主人の霊魂がどこからか見守っていて、微笑していてくれるような気がしてならないのよ」
「……ウ――ム……」と私は唸《うな》った。同時に私の頭の中に高く高く積み重なっていた硝子《ガラス》器の山が一時にガラガラガラッと崩れ落ち始めたような気がした。
「……ね。安心なすったでしょう……ホホホホホこれだけ打ち明けたらモウいいでしょう」
未亡人の声が神様のように高い処から響き落ちて来た。
私はブルブルと身ぶるいをした。
眼をシッカリと閉じた。
画帳の上に突伏した。
それから私がドンナ事をしたか順序を立てて書く事が出来ない。
頭がグラグラするほど酔っていたことを記憶し
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