「ホホホホホ。わかりましたわ。あの家政婦からお聞きになったのでしょう。説明なさらなくともいいのよ。白状して上げるから待ってらっしゃい」
 未亡人の言葉つきが急にゾンザイになった。同時に椅子に腰をかけたまま左手をズーッと白くさし伸ばして背後の書物棚から青い液体を充《み》たした酒瓶とグラスを取出した。
「……貴方お一つどう……オホホ……おいや……では妾《わたし》だけ頂くわ。失礼ですけど……まだ妾の気心がおわかりにならないんですからね。仕方がないわ。よござんすか……よく聞いて頂戴よ」
 見る見る雄弁になった未亡人は、深いグラスに注《つ》いだ青い液体をゴクゴクと飲み干した。フーッと長い息を吐くと、芳烈な緑色の香気が私の顔を打った。
 しかし私は瞬《またたき》一つしないまま未亡人の顔を凝視した。俄《にわ》かに変って来たその態度を通じて、告白の内容を予想しながら……。
「……まったく……貴方のお察しの通りなのよ。妾は妾の手にかけた少年たちの爪を取り集めて、向うの机の抽斗《ひきだ》しに仕舞《しま》っといたのよ。西洋の貴婦人たちが媾曳《あいびき》の時のお守護《まもり》にするそうですからね。その包みの
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