紙に包んだ一掴みの爪だったのです」
「……爪……?……」
「そうなんです。色んな恰好をした少年の爪の切屑《きりくず》なんです。十二三人分もありましたろうか……おわかりになりませんか」
「まあ。そんなものが妾と何の関係が……」
 そう云ううちに未亡人は何となく気味わるそうな表情になった。わざと指環をはめないで、化粧だけした両手の指を、これ見よがしに卓子《テーブル》の上に並べながら、ウットリと遠い所に眼を遣った。
 私はその視線を追っかけた。冷ややかに笑いながら……。
「そんなにシラをお切りになっちゃ困りますね」
 未亡人は私の顔を正視した。
「……わたくし……何も白ばくれてはおりませんが……」
「それじゃ僕から説明して上げましょうか。これでも貴女ぐらいの程度には苦労しているつもりですからね。蛇《じゃ》の道は蛇《へび》ですよ」
 と叱咤するような口調で云ってみた。実はその爪の屑が、何を意味するものなのか、この時まで全然わからなかったのだから……。
 すると果して反応があった。私の顔を穴のあく程みつめていた未亡人の頬に見る見るポーッと紅がさして、眼がこの上もなく美しくキラキラと輝やき初めた。
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