てから三箇月ばかりというもの閉め切ったまんまで、若い奥さんは影も形も見せなかった。
ところが真夏の八月に入った或る日の事、鯛網引《たいあみひ》きの留守で、村中が午睡《ひるね》をしている正午下《ひるさが》り時分に、ケタタマシイ自動車の音が二三台、地響《じひびき》を打たして別荘の方へ走って行った。何しろ道幅が狭いので、家|毎《ごと》にユラユラと震動して、子供なぞは悲鳴をあげながら怯《おび》えた位であった。眼を醒《さ》ました女房達の中には、火の付くように泣く子供を背中に掴み上げて、別荘の方へ駈け出した者もあったが、そんな連中はすぐあとから来た四五台の自動車に追っ払われて、逃げ迷わなければならなかった。
「別荘の中は殿様の御殿のように、立派な家具家財で飾ってあるよ」
「女中みたような若い女が二人と、運転手が下男みたような男衆が六七人とで、そんな家具家財を片付けながら、キャッキャッとフザケ合っていたよ」
「六七台の自動車は日暮れ方にみんな帰ってしまって、後《あと》には若い女中二人と、お吉婆さんと、青い綺麗な籠に這入った赤い鳥が一羽残っているんだよ」
「その赤い鳥は奇妙な声で……バカタレ……馬鹿
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