今度は町外れに在る大学の耳鼻科に駈け込んだ。
 そこには若い医員が一パイに並んで診察をしていたが、その中の一人が、松浦先生の話をきくと、X光線の図には一瞥《いちべつ》だも与えないで冷笑した。
「……馬鹿な……そんな小さな骨がX光線《レントゲン》に感じた例はまだ聞きません。こちらへお出でなさい。とにかく診《み》てあげますから」
 といううちに松浦先生を別室に連れて行って、又も奇妙な、恐ろしい形の椅子に腰をかけさせた。しかしその時には松浦先生の食道が、一面に腫《は》れ爛《ただ》れて、食道鏡が一寸|触《さわ》っても悲鳴をあげる位になっていたので、若い医員はスコポラミンの注射をしてから食道鏡を入れた。
 けれども、ここで又三回ほど食道鏡を出したり入れたりされているうちに、松浦先生はもうフラフラになってしまった。
「もう結構です。骨が取れましたせいか、痛みがわからなくなりましたようで……その代り何だか眼がまわりますようで……」
「それじゃ、このベッドの上で暫く休んでからお帰りなさい。注射が利いているうちは眼がまわりますから」
 と云い棄てて、若い医員は立ち去った。
 松浦先生は……しかしベースボ
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