「……ようし……わかった……そんなら今夜は勘弁してやる。しかし約束を違えると承知しないぞ」
という、変梃《へんてこ》な捨科白《すてぜりふ》を残しながら三人は、無理に肩を聳《そびやか》して出て行った。
勇作はそれから後《のち》、公々然とこの家に入浸りになった。
ところが、やがて五六ヶ月経って秋の収穫期《とりいれどき》になると、後家さんの下ッ腹が約束の通りにムクムクとセリ出して来たのでドエライ評判になった。どこの稲扱《いねこ》き場《ば》でもこの噂で持ち切った。しかもその評判が最高度《ぜっちょう》に達した頃に村役場へ「勇作を娘の婿養子にする」という正式の届出《とどけで》が後家さんの手で差し出されたので、その評判は一層、輪に輪をかけることになった。
「これはどうもこの村の風儀上面白くない」と小学校の校長さんが抗議を申込んだために、村長さんがその届を握り潰している……とか……村の青年が近いうちに暴れ込む手筈になっている……とか……町の警察でも内々で事実を調べにかかっている……とかいう穿《うが》った噂まで立ったが、そのせいか「金持ち後家」の一家三人は、裏表の戸をピッタリと閉め切って、醤油買
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