とした?……」
と巡査部長が眼を光らすと、その前に突立った坑夫体《こうふてい》の男が、両手を縛られたまま、うなだれていた顔をキッと擡《もた》げた。
「ヘエ……そんで……兼吉をやっつけましたので……」
と吐き出すように云って、眼の前の机の上に、新聞紙を敷いて横たえてある鶴嘴《つるはし》を睨みつけた。その尖端の一方に、まだ生々しい血の塊《かた》まりが粘りついている。
巡査部長は意外という面《おも》もちで、威儀を正すかのように坐り直した。
「フーム。それはどうして……何で毒殺しようとしたんか……」
「ヘエそれはこうなので……」
と坑夫体の男は唾を呑み込みながら、入口のタタキの上に、筵《むしろ》を着せて横たえてある被害者の死骸をかえりみた。
「私が一昨日《おとつい》から風邪を引きまして、納屋《なや》に寝残っておりますと、昨日《きのう》の晩方の事です。あの兼《かね》の野郎が仕事を早仕舞《はやじま》いにして帰って来て『工合はどうだ』と訊《き》きました」
「……ふうん……そんなら兼と貴様は、モトから仲が悪かったという訳じゃないな」
「……ヘエ……そうなんで……ところで旦那……これはもう破れカ
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