こえなくなった。
その翌《あく》る朝の事。元五郎親爺は素裸体に、鉈をしっかりと掴んだままの死体になって、鎮守さまのうしろの井戸から引き上げられた。又娘のお八重は、そんな騒ぎをちっとも知らずに廃屋《あばらや》の台所の板張りの上でグーグー睡っていたが、親爺の死体が担ぎ込まれても起き上る力も無いようす……そのうちにそこいらが変に臭いので、よく調べてみると、お八重は叱るものが居なくなったせいか、昨夜《ゆうべ》の残りの冷飯《ひやめし》の全部と、糠味噌《ぬかみそ》の中の大根や菜《な》っ葉《ぱ》を、糠《ぬか》だらけのまま残らず平らげたために、烈しい下痢を起して、腰を抜かしていることがわかった。
そのうちに警察から人が来て色々と取調べの結果、昨夜《ゆうべ》からの事が判明したので、元五郎親爺の死因は過失から来た急劇|脳震盪《のうしんとう》ということに決定したが、一方にお八重の胎児の父はどうしてもわからなかった。
初めはみんな、撃剣を使いに行く青年たちのイタズラであろうと疑っていたが、八釜《やかま》し屋《や》の区長さんが主任みたようになって、一々青年を呼びつけて手厳しく調べてみると、この村の青年ばか
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