ら膨れたのじゃエこの腹はコンゲニ……今夜初めて気が付いたが……」
 と親爺は物凄い顔をしてラムプをふりかえった。
「知らんがナ……」
「知らんちうて……お前だれかと寝やせんかな。おれが用達《ようた》しに行っとる留守の間《ま》に……エエコレ……」
「知らんがナ……」
 と云い云いふり仰ぐお八重の笑顔は、女神のように美しく無邪気であった。
 親爺は困惑した顔になった。そこいらをオドオド見まわしては新らしいラムプの光りと、娘の膨れた腹とを、さも恨めしげに何遍《なんべん》も何遍も見比べた。
「オラ知っとる……」「ヒッヒッヒッヒッ」
 という小さな笑い声がその時に入口の方から聞えた。
 その声が耳に這入ったかして、元五郎親爺はサッと血相をかえた。素裸体《すっぱだか》のまま曲った足を突張って、一足《いっそく》飛びに入口の近くまで来た。それと同時に、
「ワ――ッ」「逃げろッ」
 という声が一時に浴場のまわりから起って、ガヤガヤガヤと笑いながら、八方に散った。そのあとから薪割用の古鉈《ふるなた》を提《ひっさ》げた元五郎親爺が、跛《びっこ》引き引き駆け出したが、これも森の中の闇に吸い込まれて、足音一つ聞
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