わかった。
巡査はガッカリして汗を拭き拭き、
「馬鹿めが。何もしないのに何でおれの姿を見て逃げた」
と怒鳴りつけると、その男も汗を拭き拭き、
「ハイ。泥棒と間違えられては大変と思いましたので……どうぞ御勘弁を……」
スウィートポテトー
心中のし損ねが村の駐在所に連れ込まれた……というのでみんな見に行った。
十|燭《しょく》の電燈に照らされた板張りの上の小さな火鉢に、消し炭が一パイに盛られている傍に、男と女が寄り添うようにして跼《うずく》まって、濡《ぬ》れくたれた着物の袖《そで》を焙《あぶ》っている。どちらも都の者らしく、男は学生式のオールバックで、女は下町風の桃割れに結っていた。
硝子《ガラス》戸の外からのぞき込む人間の顔がふえて来るにつれて、二人はいよいよくっつき合って頭を下げた。
やがて四十四五に見える駐在巡査が、ドテラがけで悠然と出て来た。一パイ飲んだらしく、赤い顔をピカピカ光らして、二人の前の椅子にドッカリと腰をかけると、酔眼朦朧とした身体《からだ》をグラグラさせながら、いろんな事を尋ねては帳面につけた。そのあげくにこう云った。
「つまりお前達二人はス
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