《からだ》を使ってクタビレたので、チョットのつもりで休んだのが、思わず寝過ごしたのであった。
腰縄を打たれたまま車を引っぱってゆく男の、うしろ姿を見送った人々は、ため息して云った。
「わるい事は出来んなあ」
按摩《あんま》の昼火事
五十ばかりになって一人|住居《ずまい》をしている後家《ごけ》さんが、ひる過ぎに近所まで用足しに行って帰って来ると、開け放しにしておいた自分の家《うち》の座敷のまん中に、知り合いの按摩《あんま》がラムプの石油を撒《ま》いて火を放《つ》けながら、煙に噎《む》せて逃げ迷っている……と思う間もなく床柱に行き当って引っくり返ってしまった。
後家さんは、めんくらった。
「按摩さんが火事火事」
と大声をあげて村中を走りまわったので、忽《たちま》ち人が寄って来て、大事に到らずに火を消し止めた。気絶した按摩は担《かつ》ぎ出されて、水をぶっかけられるとすぐに蘇生したので、あとから駈けつけた駐在巡査に引渡された。
大勢に取り捲かれて、巡査の前の地べたに坐った按摩は、水洟《みずばな》をこすりこすりこう申し立てた。
「まったくの出来心で御座います。声をかけてみ
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