、五拾円也の為替を入れて聯隊長宛に送って来た。これを本紙の記事によって知った警察当局では、極秘裡に彼女の所在を厳探中《げんたんちゅう》であったが、あくまでも大胆不敵なお玉は、その中を潜って西村と関係を結んだらしく、すっかり西村を丸め込んでしまった揚句《あげく》、二人で自動車に同乗して、贋《にせ》の母親を嘲弄《ちょうろう》しに行ったのが一昨日曜の午前中の事であったという。ところが西村はそのまま、隊へは帰らずに、駅前の旅館で服装を改めて、お玉と一緒に逃亡した模様である。一方に西村の贋《にせ》母親は、憤慨の余り縊死《いし》していることが昨朝に至って発見されたので、早速係官が出張して取調《とりしらべ》の結果、他殺の疑いは無いことになった。しかし、同時に、附近の乞食連中の言に依って、この種の変態的関係は、彼等仲間の通有的茶飯事で、決して珍らしい事ではないと判明したので、係官も苦笑に堪えず……云々……。
[#ここで字下げ終わり]
「……ところでこの、ヘンタイ、セイヨクの、何とかチウのは、何じゃろか……」
「おらにもわからんがナ」
 と荒物屋の隠居は、大勢に取り巻かれながら、投げ出すように云った。
「近頃の新聞はチットでも訳のわからんことがあると、すぐに、ヘンタイ何とかチウて書きおるでナ。おらが思うに西村さんは、やっぱり親孝行者じゃったのよ。それが性《しょう》の悪い女に欺《だま》されて、大病人の母親を見すてたので、義理も恩もしらぬ近所隣りの乞食めらが、あとの世話を面倒がって、何とかかとかケチをつけて、無理往生に首を縊らせたのじゃないかと思うがナ……ドウジャエ……」
 皆一時にシンとなった。

     兄貴の骨

「お前の家の、一番西に当る軒先から、三尺離れた処を、誰にも知らせぬようにして掘って見よ。何尺下かわからぬが、石が一個《ひとつ》埋《うず》もっている筈じゃ。その石を大切に祭れば、お前の女房の血の道は一《ひ》と月経たぬうちに癒る。一年のうちには子供も出来る。二人ともまだ若いのじゃから……エーカナ……」
「ヘーッ」
 と若い文作はひれ伏した。その向うには何でも適中《あた》るという評判の足|萎《な》え和尚《おしょう》さんが、丸々と肥った身体《からだ》に、浴衣がけの大胡座《おおあぐら》で筮竹《ぜいちく》を斜《しゃ》に構えて、大きな眼玉を剥《む》いていた。
 その座布団の前に文作は
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