なく、家や地面も数日前から金《かね》に換えていたがその金は焼失していないらしい。
▲未亡人と一緒に焼け死んでいた青年は、同居していた夫人の甥で妻木敏郎(二七)という青年であることが判明した。同家には女中も何も居なかったらしく様子が全くわからないが痴情の果という噂もある。
▲当局では目下全力を挙げてこの怪事件を調査中……。
[#ここで字下げ終わり]
そんな事を未亡人の生前の不行跡と一緒に長々と書き並べてある。それを見ているうちにあくび[#「あくび」に傍点]がいくつも出て来たので、私は窓に倚《よ》りかかったままウトウトと居眠りをはじめた。
あくる朝京都で降りると私はどこを当てともなくあるきまわった。すこし閑静なところへ来ると通りがかりの人を捕まえて、
「ここいらに鶴原卿の屋敷跡はありませんでしょうか」
ときいた。その人は妙な顔をして返事もせずに行ってしまった。それから今大路家や音丸家のあとも一々尋ねて見たがみんな無駄骨折りにおわった。そこに行ってどうするというつもりもなかったけれども只何となく自烈度《じれった》かった。
夕方になって祇園の通りへ出たが、そこの町々の美しいあかりを見
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