生の姿がこの上なくミジメに瘠せて見えたからである。
「ハイ。すっかり……」と妻木君は女のように、しとやかに三つ指を支《つ》いた。
「……じゃこちらへお這入り。失礼して……あとを締めて……それから、その鼓を四ツともここへ……」
その言葉の通りに妻木君は影のように動いて四ツの鼓を未亡人と私の間に並べ終ると、その傍《かたえ》にすこし離れてかしこまった。
未亡人は無言のまま四ツの鼓を一渡り見まわしたが、やがてその中の一つにジッと眼を注いだ――と思うとその頬の色は見る見る白く血の気が失せて、唇の色までなくなったように見えた。
私たち二人も固唾《かたず》を呑んで眼を瞠《みは》った。
いい知れぬ鬼気がウッスリと室《へや》に満ちた。
突然かすかな戦慄が未亡人の肩を伝わったと思うと、未亡人はいつの間にか手にしていた絹のハンカチで眼を押えた。
私はハッとした。妻木君も驚いたらしい瞬《まばた》きを三ツ四ツした。そのまま未亡人は二分か三分の間ヒソヒソと咽《むせ》び泣いたが、やがてハンカチの下から乱れた眉と睫《まつげ》を見せた。それから小さな咳を一つすると繊細《かぼそ》い……けれども厳《おごそ》かな
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