ったように思われたが、あとから考えるとあまり違っていなかった。それは室の真中に吊された電燈の笠の黄色いのが取り除《の》けられて華やかな紫色にかわったせいであろう。真中に鉄色のふっくりした座布団が二つ、金蒔絵をした桐の丸胴の火鉢、床の間には白|孔雀《くじゃく》の掛け物と大きな白|牡丹《ぼたん》の花活《はない》けがしてあって、丸い青銅の電気ストーブが私の背後《うしろ》に真赤になっていた。
しずかに妻木君が這入って来て眼くばせ一つせずにお茶を酌んで出した。私も固くなってお辞儀をした。何だか裁判官の出廷を待つ罪人のような気もちになった。
私は妻木君が出てゆくのを待ちかねて違い棚の上に露出《むきだ》しに並んでいる四ツの鼓を見た。何だかそれが今夜私を死刑にする道具のように見えたからである。――「四ツの鼓は世の中に世の中に。恋という事も。恨《うらみ》ということも」――という謡曲の文句を思い出しながら私は気を押し鎮めた。
うしろの障子《しょうじ》が音もなく開いて鶴原未亡人が這入って来た気はいがした。
私はこの間のように眩惑されまいと努力しながら出来るだけしとやかに席を辷《すべ》った。
「ま……
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