具が欲しくなる。そうしておしまいにはきっと「あやかしの鼓」に引きつけられるようになる――といった運命の力強さをマザマザと思い知ることが出来た。けれどもそれと同時に若先生と私の膝の前に転がっている「あやかしの鼓」の胴が何でもない木の片《はし》のように思われて来たのは、あとから考えても実に不思議であった。
そのうちに若先生は私をソッと膝から離して改めて私の顔を見られた。
「何もかもすっかりわかったでしょう」
「わかりました。……只一つ……」と私は涙を拭いて云った。
「若先生は……あなたはなぜこの鼓を持って高林家へお帰りにならないのですか」
若先生の眉の間に何ともいえぬ痛々しい色が漂った。
「わかりませんか君は……」
「わかりません」と私は真面目にかしこまった。若先生は細いため息を一つされた。
「それではこの次に君が来られる時自然にわかるようにして上げよう。そうしてこの鼓も正当に君のものになるようにして上げよう」
「エ……僕のものに……」
「ああ。その時に君の手でこの鼓を二度と役に立たないように壊してくれ給え。君の御先祖の遺言通りに……」
「僕の手で……」
「そうだ。僕は精神上肉体上の敗
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