だあとのようにわななき出して思わず胴を取り落した。胴はコロコロと私の膝の上から転がり落ちて、横に坐っている妻木君の膝にコツンとぶつかった。
「アッハッハッハッハッ」
と不意に妻木君が笑い出した。たまらなくコミ上げて来る笑いと一緒に、身体《からだ》をよじって腹を押えて、しまいには畳の上にたおれてノタ打ちまわりながら、ヒステリー患者のように笑いつづけた。
「アッハッハッハッハハハハハ、とうとう一パイ喰いましたね……ヒッヒッホッホッホホハハハハハ。ヒッヒッヒッヒッ……」
私は歯の根も合わぬ位ふるえ出した。恐ろしいのか気味悪いのか、それとも腹立たしいのかわからぬまま、妻木君の黒い眼鏡を見つめて戦《おのの》いていたが、やがてその笑いが静まって来ると私の心持ちもそれにつれて不思議に落ち付いて来た。あとには只頭の毛がザワザワするのを感ずるばかりになった。
妻木君は涙を拭い拭い笑い止んだ。
「ああ可笑《おか》しい。ああ面白かった。アハ……アハ……。御免なさい音丸君……じゃない高林君。僕は君を欺《だま》したんです。本当にこの鼓の伝説を知っておられるかどうか試して見たんです。さっきから僕が家《うち》
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