せびらかしてやろうと思っているのです。ですからそれ以来高林へ行かないのです」
「じゃ何故あなたに隠されるのですか」
 と私は矢継早《やつぎばや》に問うた。その熱心な口調にいくらか受け太刀《だち》の気味になった妻木君は苦笑しいしい云った。
「おおかた僕がその鼓を盗みに来たように思っているのでしょう」
「じゃどこに隠してあるかおわかりになりませんか」
 と私の質問はいよいよぶしつけになったので、妻木君の返事は益々受け太刀の気味になった。
「……伯母は毎日出かけますのでその留守中によく探して見ますけれども、どうしても見当らないのです」
「外へ出るたんびに持って出られるのじゃないですか」
「いいえ絶対に……」
「じゃ伯母さんは……奥さんはいつその鼓を打たれるのですか」
 この質問は妻木君をギックリさせたらしく心持ち羞恥《はにか》んだ表情をしたが、やがて口籠《くちごも》りながら弁解をするように云った。
「私は毎晩不眠症にかかっていますので睡眠薬を服《の》んで寝るのです。その睡眠薬は伯母が調合をして飲ませますので私が睡ったのを見届けてから伯母は寝るのです。その時に打つらしいのです」
「ヘエ……途中
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