やじ[#「おやじ」に傍点]が、
「早く御養子でもなすっては……」
と云ったら並んでいる内弟子の三、四人が一時に私の方を見た。老先生は苦笑いをされた。
「サア、靖《やす》(若先生)のあとは、ちょっとありませんね。ドングリばかりで……」
とみんなの顔を一渡り見られた。内弟子はみんな真赤になった。
私はこの時急に若先生に会って見たくなった。――きっとどこかに生きておられるに違いない。そうして鼓を打っておられるような気がする。その音《ね》がききたいな――と夢のようなことを考えながら、老先生のうしろにある仏壇のお燈明の間に白く光っている若先生のお位牌を見ていると、不意に、
「その久弥さんはどうです」
と胡麻塩おやじ[#「おやじ」に傍点]が又出しゃばって云ったので私は胸がドキンとした。
「イヤ。これはいわば『鼓の唖《おし》』でね……調子がちっとも出ないたち[#「たち」に傍点]です。生涯鳴らないかも知れません。こんなのは昔から滅多にいないものですがね」と云いながら私の頭を撫でられた。私もとうとう真赤になった。
「その児《こ》はものになりましょうか」
と内弟子の中の兄さん株が云った。吹き出し
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