台=戦場」の厳粛さに打たれるからではあるまいか。
戦国の世のこと……名前は忘れたが、敵味方二人の騎馬武者が、夕暮れの余吾の湖のほとりで行き遭った。
「ヤアヤア、それなる御方に物申す。お見受け申す処、しかるべき大将と存ずる。願わくは一合わせ見参仕りたい」
「イヤ、これはお言葉までもないこと。なれども、暫時お待ちあれ。手前の槍は雑兵の血で汚れておりますれば……」
といううちに、その武士は、かたわらの湖に槍の穂先を浸して、ザブザブと洗い始めた。その武者振りの見事さに、相手は感に堪えて見惚れさせられた。かくて互いに槍を合わせること十数合に及んだが、そのうちにとうとう真暗になってしまったので一方が槍を引いた。
「待たれよ。もはや、槍の穂先も見えぬげに御座れば、残念ながらこれにてお別れ申そう」
「いや、某もさように存じておったところ……」
「さらば」
「さらば」
というのでドロンゲームになったが、後にこの二人は某侯の御前で出会して、本名を名乗り合って莫逆の友となった……というような話が「常山紀談」に載っている。
外国は知らず、日本の戦争はここまで「純美化」し、「能化」している。美しく名
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