であつた。その時分は電車もなかつたので、無論往復一里餘も徒歩だつたのである。その學生は一瓶で癒つたから、殘りの一瓶は大切に保存して置くと云つて居た。
 もう一つ、私の郷里の青年が脚氣になつたので、國に歸る爲に出發した處、汽車の中で衝心して、已むなく途中で下車し、小田原の病院に入つたが、危篤だから直ぐ來いといふ電報を、私の隣家の知人の許に寄越した。その時私は「オリザニン」を二瓶持たせて、院長と相談の上、服用させてくれと頼んだ。ところが、二、三日ですつかり輕快し、一週間ばかりで國へ歸つた。患者の方では、意外の效果に驚いたといつて、感謝の手紙を寄越したが、院長は私の與へた藥が效いたとは云はなかつたやうだ。
 また或時、私の實驗室の研究生が理髮店に行つたところ、奧で何だか大騷ぎをして居るので理由を訊くと、主人が脚氣衝心を起して悶へ苦んで居るのだといふ。その時、研究生は恰度ポツケツトに「オリザニン」を入れて居つたので、「これは脚氣に良い藥だ、眼の前で服用して見ろ」といつて、一瓶を半分ばかり服用させた。すると三十分ばかりの内に、今まで非常に苦悶して居つた病人がケロリと平靜になつたので、翌日までに全
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