たので、私は小さき胸にはりさけるような悲哀《かなしみ》を押しかくして、ひそかに薄命な母を惨《いた》んだ、私は今茲《ことし》十八歳だけれども、私の顔を見た者は誰でも二十五六歳だろうという。
「君怒ったのか、よし、君がそんなことで怒るくらいならば僕も君に怒るぞ。もし青森までに軌道なしで走るところが一里十六町あったらどうするか」声はやや高かった。
「そんなことがありますか!」私は眼をみはって呼気《いき》をはずませた。
「いいか、君! 軌道と軌道の接続点《つなぎめ》におおよそ二分ばかりの間隙《すき》があるだろう、この間|下壇《した》の待合室で、あの工夫の頭《かしら》に聞いたら一|哩《まいる》にあれがおよそ五十ばかりあるとね、それを青森までの哩数に当てて見給え、ちょうど一里十六町になるよ、つまり一里十六町は汽車が軌道なしで走るわけじゃあないか」
私はあまりのことに口もきけなかった、大槻が笑いながら何か言おうとした刹那《せつな》、開塞《かいさく》の信号がけたたましく鳴り出した。
四
品川行きのシグナルを処理して私は小走りに階壇を下りた。黄昏《たそがれ》の暗さに大槻の浴衣《ゆかた》
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