に大槻の描いた水彩画であろう半紙を巻いたものを提《さ》げている。私はハッとしたが隠れるように項垂《うなだ》れて、繃帯のした額に片手を当てたが、さすがにまた門の方を見返した。
 私が見返した時に、二人はちょうど今門を出るところであったが、一斉《いっせい》に玄関の方を振り向いたので、私とパッタリ視線が会うた。私は限りなき羞かしさに、俯向いたまま薬局の壁に身を寄せた。
 きのうまで相知らなかった二人がどうして、あんな近附きになったのであろう、千代子が大槻を訪ねたのか、イヤイヤそんなことはあるまい、私は信じなかったが世間の噂では大槻は非常に多情な男で、これまでにもう幾たびも処女を弄《もてあそ》んだことがあるという、そう言えばこの間も停車場《ステーション》でわざわざ千代子の戸《ドアー》を開けてやったところなど恥かしげもなく、あつかましいのを見れば大槻が千代子を誘惑したに相違ない。それにしても何と言うて言い寄ったろうか。
 千代子が大槻のところへどこか診察してもらいに行って、この玄関に待ち合わしているところへ大槻が奥から出て来て物を言いかけたに違いない、「マアこっちへ来て画でも見ていらっしゃい」な
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