47−下−14] 駄目《だめ》です駄目《だめ》です!」と私は一生懸命に制止した。
紳士は微酔《ほろよ》い機嫌《きげん》でよほど興奮しているものと見えて、私のいうことをさらに耳に入れない。行きなり疾走をはじめた二等室を追いかけて飛び乗りをしようとする。私はこの瞬間|慥《たし》かに紳士の運命を死と認めた。
よし救え! 私は立ちどころに大胆な決心をした。
まさに紳士が走り出した汽車の窓に手をかけようとした刹那《せつな》、私は紳士のインバネスの上から背後《うしろ》ざまに組みついた。
「な、な、何をするか! 失敬な※[#感嘆符三つ、448−上−2] こやつ……」
「お止しなさい、危険《あぶない》です※[#感嘆符三つ、448−上−3]」
駅長も駆けつけた。
けれどもこの時紳士は男の力をこめて私を振り放したが、かっとして向き返ると私の胸を突き飛ばした。私は突かれるとそのまま仰向けに倒れたので、アッという間もなく、柱の角に後頭部をしたたか打ちつけた。
* * *
仮繃帯《かりほうたい》の下から生々しい血汐《ちしお》が潤《にじ》み出して私はいうべからざる苦痛を覚えた
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